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スイーツを口にする時間は、ほっとひといき、素の自分に戻るとき。 今回はローソンの「どらもっち(あんこ&ホイップ)」を食べながら、出口若武六段の素顔に迫ります。
いつも笑顔、とにかくおおらか。一緒にいる誰もが癒され優しい気持ちになってしまう――出口若武六段は、そんな魅力の持ち主です。
「テニスが好き!」ということで、今回はコートで撮影を。いざ始まったら「サーブってどうやるんでしたっけ?」「ああ~、入らないなあ!」と苦戦気味でしたが、それでも終始楽しそうなのが出口六段。
そうやって、何かを「好き」「楽しい」と思うピュアな気持ちがあふれる様子は、将棋も同様です。
三段時代に出場した第49期新人王戦では決勝三番勝負に進出するなど、プロ入り前から頭角をあらわす実力者。井上慶太九段のもと、稲葉陽八段、菅井竜也八段、船江恒平六段に次いで23歳で棋士になり、現在27歳。第7期叡王戦 では、初のタイトル挑戦と六段昇段を決められました。
師匠には「勝負への執着心が足りない」と言われたことも。でもその裏側にあるのは「何事も一生懸命やる」というこだわり、そのうえで「執着しない」という哲学...ご趣味のテニスや読書、北村桂香女流初段との新婚生活についてなど、お話を伺いました。
一生懸命やる。執着はしない。テニスと読書を通して見えた出口哲学
――出口六段のリクエストで、今日はテニスコートで撮影しました。「サーブってどうやるんでしたっけ?」と言いながらも、とても楽しそうで...!
あっはは、そうなんですよ。実はちゃんと習ったことがなくて、連盟のテニス部で見様見真似でプレイしている感じです。まぁ、テニスはラケットを持ってボールを追ってるだけでも楽しいですし、ボールが当たったらいいなくらいで(笑)。
――すごい、出口六段のお人柄が伝わるようなおおらかなコメントです...!
楽観的って言われることも多いんです。将棋を始めてからですね、こんなにおおらかになったのは。
――将棋をやられると、ストイックになる方が多い印象でした。
うーん。自分のことを客観視するからですかね。言語化するのが難しいですが、将棋って主観的な視点はできる限り取り除いたほうがいい競技だと思うんですよ。自分の考えはもちろんありますけど、局面は局面でしかないんで。全体的に一歩離れて見ることが重要で。なかなかそれができずに視野が狭くなってしまうこともあるんですが、なるべく一歩引いて、離れて見るようにしていますね。それがあってか、どんどん物事に執着しなくなってきて、おおらかになったような気がします。
――そんななかで、これは執着してるなと自覚していることはありますか?
一生懸命やること、ですね。それだけは大事にしたいです。目の前のことを全力でやらないのは嫌だなと。一生懸命やったその先にあるものには、執着しないというんですかね。自分がどれだけ頑張っても、勝ち負けははっきりつきますし、次に向けて気持ちを切り替えなければいけません。執着心をパワーに変えられる方もすごいなと思うのですが、自分は違うタイプで。
――なるほど、そうやって何かに打ち込むタイプなんですね。中学校3年間は陸上部だったと伺いました。
とにかく体を動かすことが好きなんです。小学生の頃はサッカーをずっとやっていて、リフティングも150回ぐらいできました。でも今は5回ぐらいかな...成長して身長や手足の長さが変わってから、自分でも体をうまく扱いこなせていない感覚があって(笑)。ちょっと不器用なんです。
――読書もお好きとのことで、たくさん読まれているんですね。
小学生の頃が一番読んでいて、図書館の児童書をすべて読みました。図書館のカードは一人6冊までしか借りられないので、親のカードを使って一度に12冊借りて。両親が共働きだったので、将棋を始める前は、外で運動をするか、家で本をどんどん読んでいくか、だいたいこの二択でしたね。
本を読むたびに、いろいろな生き方や世界があると知れましたし、だからこそ、何かあっても「それでいいか」と割り切れるようにもなりました。
――広い世界を本に教えてもらった。
そうですね。両親が共働きの環境で、自分は本を読んだり、将棋を指したり、一生懸命打ち込めることに救われていた面もあったと思います。もちろん両親にも大切に育ててもらいましたが、一人で何かに打ち込んだ時間も大きかったのかなと思っています。
――記憶に残っている本はありますか?
辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』です。ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生の話なんですけど、当時小学生だった自分は、中学校や高校ってこんなに怖い世界なのかとインパクトが大きくて(笑)。人物描写がすごく細かくて、本の世界に引き込まれた経験でした。辻村さんの『かがみの弧城』もお気に入りです。
――他にお好きな作家さんは?
『君の膵臓をたべたい』の作者・住野よるさん、『52ヘルツのクジラたち』の作者・町田そのこさん、『線は、僕を描く』の作者・砥上裕將さんでしょうか。どれもすごく面白かったです。
母が読んだミステリー小説をもらって読んでいて、ミステリーが好きなんです。自分は奨励会の三段リーグ戦を長くやっていて、3月からオフシーズンになるんですけど。ちょうどその時期に、気分転換に本屋大賞のノミネート作を毎年読んでいました。自分の中でリラックスする方法になっています。だいたい集中して1時間ほどで読み終えます。
――読まれるのは小説が多いですか?
そうですね、将棋の本よりも読んでいるかもしれません(笑)。ファンの方から本をいただくこともあるんですが、全部読んでます。
井上門下で切磋琢磨。師匠、兄弟子から学んだこと
――兵庫県明石市のご出身で、加古川将棋センターに通われていらしたんですね。
そうですね。幼い頃は、家の一番近くで将棋をさせる場所という認識でした。面倒見がいい方が多かったので、自分は、よそ見をしながら将棋を指すような態度の悪い子だったので、それが原因でこの子とは指したくないと言われたこともあります。そこは師匠が正してくれました。でもその経験もあって、自分は今は「自分に甘く、他人にも甘く」がモットーで。子どもの頃の自分を思ったら、後輩が何かやらかしてても、自分はできた人間でもないので甘くいようと思います。師匠には「それは怒れ!」って言われましたが(笑)。
――井上慶太九段といえば、要所要所でお弟子さんに大切なお言葉をかけるイメージがありますが、出口六段はいかがですか?
冒頭の話にも通じますが「勝負への執着心が君には足りない」と言われたのが、印象に残っています。奨励会三段で最後の一歩がなかなかつかめない時期にかけてもらった言葉です。
――いかがでしたか?
たしかに...って。この言葉もそうですが、師匠には人として育てられたなと思います。父親も僕が棋士になったときに「もう一人の父親は井上先生だね」と言うくらい、師匠にはたくさんのことを教えてもらいました。自分が小学生の頃に奨励会に入りましたが、その時は敬語が使えなくて、生意気な子どもで。正しい方向に導いてもらえて、本当に恩があるなと思います。あと、師匠の口癖で、「兄弟子から学べ」という言葉があって。
――井上門下は、稲葉陽八段、菅井竜也八段、船江恒平六段...個性豊かな先生が集まっていらっしゃいますから...。
将棋に対する姿勢は菅井八段がとても真剣で、あれだけ一生懸命努力をして、結果を出している、将棋に対する真剣な姿勢は菅井八段から学びました。
稲葉八段は、研究会をよく開いてくださって、今までで一番将棋を指してもらっている棋士なのだと思います。僕が奨励会時代から将棋を教えていただいていて、ABEMAトーナメントで指名をしてくださったこともありましたし、ご一緒する時間がすべてすごく勉強になっています。
船江六段は一門の中ではまとめ役という立ち位置で、いつも皆を気にしてくださっていて、自分にとって本当に安心できる兄弟子です。船江六段がいれば何事もうまくいく、そういった安心感があるんです。
もちろん奨励会の頃はお三方に将棋を教わっていて、それが今でもすごくプラスになっています。
――「兄弟子から学べ」という先ほどの言葉からすると、出口六段からも弟弟子は何か学ぶと思いますが、どんな存在を目指したいですか?
えっ、わからないです(笑)。でも、一所懸命頑張ってほしいとは思います。自分は、一生懸命に頑張るというのを目標にやっているので、そういった姿勢が伝われば。でも、もう皆一生懸命やっているので大丈夫だとは思っているので、今後も継続してほしいです。
家族を持って振り返る、家族との関係。結婚後の、安心の毎日
――出口六段は一人っ子ですか?
そうです。父が単身赴任をしている時期も長かったので、子育てや家事全般、母が担ってくれて。自分は奨励会時代が長かったですしね。奨励会の時代は、何者でもない期間があって、その頃、母に迷惑をかけていたのだと今でも思います。
――衝突することも...?
母から将棋を諦めてとは言われないまでも、他の道を探した方がいいよ、というスタンスの話もされたこともありました。でも、自分は将棋一本と決めていたので、そういう面で衝突はしました。お世話になった、ご迷惑をかけた、身内なので言い方が難しいですね(笑)。どちらにしても、母に安心感を与えられるような子ども時代ではなかったなと思います。
――出口六段がプロになられたときは、お母様はとても喜ばれたのではありませんか?
すごく喜んでもらいました。一番時間をかけてもらった、そういった大切な存在だなと思います。これから、何かしらでその気持ちを返していけたらと思います。
――2021年4月に北村桂香女流初段とご結婚されました。共通のご友人と遊ばれたのがきっかけだとか。出口六段からアプローチされたんですか?
これ、いつもどう答えたらいいのか難しくて...自分からアプローチをしたことにしておきましょう(笑)。
――お休みの日は?
休みは将棋の準備時間みたいな感じなので、将棋の話をすることもあります。でも最近は気分転換にどこかに出かけることも増えましたね。月に一回ぐらいカラオケに行っていますよ。負けたときの気分転換として付き合ってもらうこともあって。そういうときは、妻は「しょうがない」みたいな感じで(笑)。でもカラオケも点数の競い合いになるんですよね、妻の方が上手です。
自分は上手に歌うとかではなくて、大声を出せたら何でもいいです。青嶋未来六段が100点が出る意味がわからないです(笑)。どれだけ頑張っても93点ぐらいが限界ですよ、全然調子が良くないこともありますし。
――デュエットすることも?
この曲は2人で歌うと決めている曲があって、Mrs. GREEN APPLEさんの「点描の唄」は2人で歌います。
――お料理はしますか?
自分は作りませんが、妻がやってくれます。自分は子どもの舌で、カレーが大好きです。ごちそうだなと思いますね。
――一緒に行ってみたい場所はありますか?
最近水族館に行っていないので行ってみたいです。あと、旅行にいくなら一人よりも、妻と一緒に行くのが楽しいかなと思います。
――結婚されてから、どんな変化が生まれましたか?
安心感があるなと思います。個人的な話になりますが、自分が盲腸になって緊急入院になったときとても心強かったです。結婚式の前撮りでは「笑ってください」と言われたんですけど、二人とも緊張して全部同じ笑顔になっちゃってて。いろんなことで笑い合えるのが楽しいですね。
対局のあとは、家で一緒にお菓子タイム。
出口家でブームになった「どらもっち」
――では、お話も進んだところでおやつタイムに入ります。今日はローソンの「どらもっち」をお召し上がりいただきました。
とても美味しくて、「自分はあんこが好きなんだ!」と気づけた逸品です。それまで和菓子を食べる機会があまりなかったのですが、「どらもっち」を食べてから、あんこって美味しいなと。
実はうちでは、どちらかが対局のある日、家にいるほうがお菓子を用意しておくという暗黙の決まりがありまして...。
――それは素敵ですね。
ある日、妻が用意したのが「どらもっち」だったんです。和菓子と洋菓子の良いところが詰まっていますよね。「なんだこれは!」とすごく惹かれて。それ以来、出口家で「どらもっち」がブームになったんです(笑)。そんな思い出も込めて、今回は「どらもっち」を選びました。うん、やっぱり美味しいです。
10問アンケート
インタビューで聞ききれなかった10の質問を、出口若武六段に伺いました。
Q1
お名前の由来を教えてください。
出口
父と母から1文字ずつもらいました。はじめは「若夢」だったみたいですが、画数があまりにも良くないのと、若い夢は早死にするということで、若武になったようです。
Q2
好きなお店の好きな一品(メニュー)を教えてください。
出口
関西将棋会館にある洋食店「レストランイレブン」の豚肉の天ぷら「珍豚美人(チントンシャン)」が好きです。本当に美味しくて!
Q3
お好きなお酒の銘柄は?
出口
ハイボールとワインが好きです。誰かとお酒を飲むときの空気が好きで、家で一人で飲むことはないですね。お酒飲んでも水を飲んでもテンションは変わらないので、どっちを飲んでも同じかなって思うこともあります(笑)。
Q4
お好きな映画を教えてください。
出口
子どもの頃に父と観に行って印象に残っているのは、『ダ・ヴィンチ・コード』です。好きな映画です。
Q5
カラオケがお好きとのことで、十八番は?
出口
ちょっと曲名が出てこないんですが...こんな感じの曲です(ワンコーラス鼻歌で歌ってくださいました)
Q6
棋士になっていなかったら、何になっていたと思いますか?
出口
わからないですが、会社員をやっていたのかなと思います。
Q7
身に付けたいスキルは?
出口
よく怒られるので、整理整頓ができるようになりたいです。
Q8
行ってみたい場所は?
出口
ヨーロッパに行ってみたいです。母が留学していた関係で、子どもの頃にアメリカには行ったことがありますが、ヨーロッパは全然行ったことがなくて。イタリアやヴェネツィアに行ってみたいです。
Q9
10年後、どんな棋士になっていたいですか?
出口
この世界は活躍をし続けなくてはいけないので、どれだけ記録を向上できるか、10年後のほうが今よりも強くなっていたいです。年齢を重ねることで衰える部分もあるので難しいとは思いますけど、今より強くなることが大切なのかなと思います。
Q10
ファンの方へメッセージをお願いします。
出口
いつも応援していただき、ありがとうございます。
応援が力になっています。自分がタイトル挑戦をしたときにも、いろいろな方から声をかけていただいて、本当にうれしくて、そういった応援にお答えできるように頑張っていきたいです。
写真:阿部吉泰
1995年4月28日生まれ。兵庫県明石市出身。井上慶太九段門下。2007年9月に奨励会へ入会。2013年4月より三段リーグに参加。三段時代に出場した第49期新人王戦では決勝三番勝負に進出するなど、プロ入り前から頭角をあらわす。2019年4月、四段昇段。第7期 叡王戦にて、初のタイトル挑戦と六段昇段を決めた。2021年4月に北村桂香女流初段と結婚。趣味はテニスと読書。
ローソン×日本将棋連盟 コラム
ライター藤田華子
音楽雑誌の編集者を経て、現在は企業のコンテンツ制作を手掛けています。SDGsやライフスタイルについての連載も執筆。趣味は将棋(将棋ペンクラブのお手伝い)、お風呂(温泉ソムリエです)、読書。観る将・読む将として、将棋の魅力をお伝えしていきます!
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