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リズ・トラス英首相の辞意表明に伴う与党・保守党の党首選で24日午後2時(日本時間同10時)、リシ・スーナク元財務相(42)の勝利が決まり、自動的に、次期首相に就任することが決まった。
スーナク氏は、過去200年以上で最も若いイギリス首相となる。インド系イギリス人のヒンドゥー教徒で、イギリス初の南アジア系首相となる。近日中にバッキンガム宮殿を訪れ、国王チャールズ3世から組閣の要請を受け、首相として就任する。東部ノーフォークのサンドリンガム邸に滞在中のチャールズ国王はあらかじめ予定されていた通り、24日中にロンドンへ戻るという。
BBCは、特定候補への支持を言明した保守党下院議員の人数を集計。それによると、日本時間24日午後9時半現在で、スーナク氏は193人の支持を得ていた。
党首選の手続きなどを取り仕切る保守党の「1922年委員会」は、推薦人提出の締め切りだった午後2時に集まり、グレアム・ブレイディー委員長が、スーナク氏の勝利を宣言した。
新党首となったスーナク氏は保守党の1922年委員会や下院議員たちと内々に会談した後、議会に近い保守党本部に到着し、集まった関係者に歓声で迎えられた。
スーナク氏は午後4時過ぎから、保守党本部で新党首として初めて演説をした。開口一番、トラス首相に感謝し、「多大な変化と、国の内外がきわめて難しい状況」の中、「威厳ある」指導力を示したとたたえた。
続けて、同僚議員たちの支持を得て党首に選ばれたことについて「身が引き締まる思いで、名誉に思っている」とした上で、「愛する党に仕え、多大な恩義のある国にお返しができるのは、人生で最高の栄誉だ」と話した。
イギリスは「偉大な国」だが、「まぎれもなく経済的に甚大な課題に直面している」と指摘し、「私たちはいま安定と団結が必要だ」、「この党とこの国をひとつにまとめることを、自分の最優先課題にする。課題を乗り越え、子供や孫たちのためにより良い、豊かな将来を築くには、それしか方法がないからだ」と述べた。
さらに「誠実に、そして謙虚に、皆さんに仕えると誓います」と言い、「イギリスの人たちのため結果を出すよう、昼夜を問わず働きます」と約束したスーナク氏は、1分半足らずの演説を終えた。
モーダント氏とトラス氏も「全面支援」を表明
最後まで争ったペニー・モーダント下院院内総務は、締め切りの午後2時の直前、撤退するとツイートした。BBC集計では、モーダント氏への支持を言明していた下院議員は26人。陣営は90人以上の支持を集めており、締め切りまでに必要な100人に達すると繰り返していた。
モーダント氏は、「党首選の日程は短かったものの、今は確かさが必要だと同僚議員たちが感じているのは明白だ」とした上で、「私たちは次の首相を選びました。この決定は歴史的なもので、私たちの党がいかに多様で才能にあふれているかを、今また示しています。私はリシを全面的に支援しています」と書いた。
モーダント氏はさらに、「私たちは国とお互いとリシのためにも、団結して、国のために一緒になって働かなくてはなりません。やるべきことはたくさんあります」と結んだ。
自らの減税策が市場と国内外の混乱を招いたため、20日に辞任を表明したトラス首相は、スーナク氏への祝意をツイートし、「全面的に応援する」と書いた。
スーナク氏とは
スーナク氏は1980年、英南部サウサンプトンで生まれた。有名私立ウィンチェスター・コレッジからオックスフォード大学に進学し、政界志望の学生が多く学ぶ「哲学、政治、経済」の学部コースを専攻。続いて米スタンフォード大学でMBAを取得した後、金融業界に入り、ゴールドマン・サックスやヘッジファンドで財を築いた。
2015年に保守党から下院に初当選した。初当選から7年で首相になるのは、現代のイギリスでは最速。
インド系の両親は共にアフリカ東部出身で、1960年代にイギリスに移民した。父親は総合医で、母親は調剤薬局を経営していた。スーナク氏はヒンドゥー教徒。
インド出身の妻アクシャタ・ムルティさんとは、スタンフォード大学で知り合った。資産家のムルティさんは、巨額の海外資産についてイギリスの所得税を納めていなかったことが大きな問題になったが、今年4月に海外資産についてイギリスで納税すると発表した。
今年4月には、新型コロナウイルス対策のロックダウン中に首相官邸などの政府機関で数々のパーティーが開催されていた問題に絡み、財務相としてジョンソン首相(当時)と共に警察から罰金を科せられた。
ジョンソン前首相は前日に出馬辞退
動向が注目されていたジョンソン前首相は23日夜、与党・保守党の党首選に出馬しないと表明した。撤退発表前のジョンソン氏は54人だったが、ジョンソン氏自身は102人の支持を得ていると述べた。
ジョンソン前首相は声明で、自分が党首選に出れば、全国の保守党員の投票で自分が勝っていた可能性は「とても高く」、新首相が決まる28日には自分が「ダウニング街(の首相官邸)に戻っていた」可能性も高いと述べた。
しかし、国を治めるには党の団結が必要だとして、「この数日で残念ながら、(自分の出馬は)まったく正しいことではないという結論に達した」と表明した。
スーナク氏は前首相に感謝
ジョンソン氏の不出馬発表を受けてスーナク氏はツイッターで、「ボリス・ジョンソンはブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)と見事なワクチン接種事業を実現した。この国が直面した中でも特に厳しい複数の挑戦の中、この国を率いて、さらにはプーチンがウクライナで始めた野蛮な戦争で、プーチンに立ち向かった。これについて私たちはいつまでも、感謝し続ける」と書いた。
スーナク氏は続けて、「(ジョンソン氏は)再び首相を目指さないと決断したが、国の内外で公職に貢献し続けてもらいたいと心から願っている」とツイートした。
他方、スーナク氏の側近はBBCに対して、ジョンソン氏が撤退したからと言って決して情勢を過信していないと話していた。
「リシは(24日の)午前も、党首選の推薦手続きの前まで、引き続き同僚議員たちと協議し続け、党をどうやってまとめてこの国を前進させるのが一番いいか話し合う」と、スーナク陣営は述べた。
BBCのニック・アードリー政治担当編集委員は、「スーナク氏が確実に優勢だが、今後数時間のうちにモーダント氏はジョンソン氏の支持者を自分の側に引き寄せ、自分こそが保守党下院議員の支持を相当数得ていると主張するはずだ」と述べていた。
「今はその時ではない」=ジョンソン氏
ジョンソン前首相は、そもそも党首選に出馬しようと思った理由について、「私は3年近く前、この党を率いて総選挙での圧勝を実現した。それだけに現時点での総選挙を回避するため、私はまたとない立場にあると思う」、「政府は現在、国中の家庭が直面する経済的な圧力に注力しなくてはならない。それなのに現時点で総選挙を行えば、その重要課題から目がそらされてしまう。それはとんでもないことだ」と書いた。
「自分ならば2024年に(総選挙で)保守党を勝たせられると思っている。そして(党首選出馬に必要な)推薦人の数は、102人というきわめて高いハードルを超えたと、今晩こうして明らかにできる。提案者と賛成者もいる。なので明日(24日)、立候補するのは可能だ」
「そうすれば私が、保守党員による選挙で成功し、金曜にはダウニング街の首相官邸に戻っている可能性は、とても高い」
「しかしこの数日で私は残念ながら、これはまったく正しいことではないという結論に達した。議会で党が団結していなければ、効果的に国を治めることはできない」
「私は国益のために協力できないかと期待して、リシ(スーナク)にもペニー(モーダント)にも呼びかけたものの、残念ながらそのための方策を一緒に考え出すことはできなかった」
「そのため残念ながら、私は出馬せず、成功した人を支持することが、最善の策だ。私に貢献できることはたくさんあるものの、残念ながらともかく今はそうするべき時ではない」と、ジョンソン氏は結んだ。
ハント財務相はスーナク氏支持
ハント氏は、「存亡の危機を前に国民に容赦ない真実をつきつけた」ウィンストン・チャーチル氏の例を挙げ、第2次世界大戦時にチャーチル首相が「真実を語ったから、国は彼の言葉に耳を傾け、彼を信じて従った」のだとした上で、スーナク氏も真実を語る人だとたたえた。
「この国の財政と市場での信用、国際的な評価はひどい打撃を受けた」、「安定と信用を回復するには、難しい選択をすると信頼できるリーダーが必要だ。リシ・スーナクこそ、それができるリーダーだ」と、ハント氏は書いた。
「リシは夏に、財源なき減税は維持できないと警告した。大勢が聞きたがることを言わなければ首相になれないかもしれないと彼は承知しながら、大勢が聞きたがる言葉を口にしなかった。残念ながら、彼が正しかったことは実証されてしまった」とハント氏は続け、スーナク氏が「間違ったページをめくり、国益のために決断し、この国の経済の傑出した可能性を再建する」と強調した。
ハント氏は夏の党首選でもスーナク氏を支持。トラス政権崩壊のきっかけとなった減税策をめぐり、解任されたクワジ・クワーテング前財務相の後任になると、減税策のほとんどを撤回した。
野党は総選挙要求
最大野党・労働党のアンジェラ・レイナー副党首は、ただちに総選挙を実施するようあらためて呼びかけた。
「リシ・スーナクは国をどう治めるつもりか一言も言っていないが、保守党は彼に国の鍵を渡そうとしている。この展開について誰も投票していない」と、レイナー副党首は批判。「(スーナク氏が)国民の精査を避けようとしているのは、決して意外ではないのかもしれない。ほんの数週間前にはリズ・トラスに負かされていたくらい、ひどいのだから」と述べた。
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