まさにドラマのような劇的なラストシーンで締めくくられたWBC。大車輪の活躍を見せた大谷翔平選手は昨年、WBCについて「より多くの人に楽しんでもらえるように一生懸命プレーしたい」と語っていたことが報じられました。そんな大谷選手が口にした「一生懸命」という言葉を取り上げているのは、朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田安正さん。前田さんは自身のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』で今回、「一生懸命」の本来の形である「一所懸命」が生まれた時代背景や意味を紹介するとともに、侍ジャパンと「一生懸命」の縁(えにし)について考察しています。
「一生」ではなく「一所」にかけた武家社会
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で、みごと優勝した日本。アメリカとの決勝戦は、視聴率が42.4%だったそうです。この視聴率を見ても、国内の熱狂ぶりがわかります。
チームの「家庭的な一体感」が、サッカーW杯とは異なる魅力を醸し出していたようです。選手たちの一生懸命なプレーが奇跡的な演出をもたらし、劇的なドラマを見たような気がしたのは、僕だけではなかったのではないでしょうか。
それまでさほど興味のなかった人たちをも、アッという間にファンにしていました。野球を真剣に楽しむ姿が、これまでになかった魅力に映りました。
ということで、今回は「一生懸命」について考えていきます。
小学5、6年のころ「一生懸命」という4字を見て、なんと厳しい熟語なのだろうとやるせなくなったことを覚えています。
「一生」は「生まれてから死ぬまで」のことです。「懸命」は「力を尽くして頑張るさま」を言います。つまり「生まれてから死ぬまで、力を尽くして頑張る」という意味になるからです。もちろん子どもだったので、明確に字義を押さえていたわけではありません。
「一生」は「一所」のこと?
それでも、そんなにずっと頑張れるわけがないし、僕には絶対できないと思っていました。毎日、力を尽くして頑張っていたら、心のゴムが伸びきってしまうような気がしたのです。こんなことができるわけがない。僕はこの四字熟語に対して強烈な敵意を持っていました。
中学に入って、大きな辞典を使うようになりました。あるときふと、このことばを引いてみると「一生懸命」はもともと「一所懸命」だということがわかりました。
「一所」なら、一つところだから、まあ自分でも頑張る余地があるかな、と思いながら、さらに読み進めました。
すると「一所」は「主君から与えられた領地」のことだと書いてありました。さらに「懸命の地」とか「一所懸命の地」ということばがあることも知ったのです。これは、「一家の家計を支えるべき大切な領地」のことでした。
武家社会から生まれたことば
『国史大辞典』によると、『北条五代記』には「是は頼朝公より以来我家につたはる所領なり、此所領なかりせハ君をもたつとふへからず(尊ぶべからず)、戦場にて命をも捨へからず、此所帯に身命を売切たる故に一所懸命と書ていのちをかくとよめり」と記されているとあります。「武士階級が主君への奉公、軍役の義務を果たすうえで、命をかけて守るべき本領を一所懸命地と称していた」(鈴木英雄)というのです。
「武士階級にとって一所懸命地の確保と新恩所領の給与にあずかることは主君への奉公と一族の発展にとって不可欠の要件であり、一所懸命という語は、在地に居住して領主的支配をおしすすめている時期の武士階級にふさわしい表現」(鈴木英雄)だったのです。現代でも、土地が重要な資産となっているところが面白いですね。
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