政府の新型コロナウイルス対策は、ワクチン接種の成否がカギを握る。コロナワクチンを巡る政治の舞台裏を検証する。(敬称略)
「6月に1億回分のワクチンが来るのが分かってるんだ。思い切ってやるぞ」
4月23日朝、首相官邸の執務室。首相の菅義偉は、急きょ呼び出したワクチン担当の行政・規制改革相、河野太郎にこう声をかけ、接種完了の目標を「7月末」と宣言する考えを伝えた。
新型コロナウイルスのワクチンに関して、65歳以上の高齢者(約3600万人)に2回接種する必要量(7200万回)を大幅に上回る量を、6月末までに自治体に届けるめどが立ったことを、菅は把握していたからだ。それまで多くの自治体は、接種終了時期を「8月末」などと見込んでいた。
自治体に任せた接種日程に国が口を出せば、混乱すると考えた河野。「それは言わないでください」と何度も菅をいさめたが、「6月末」完了すら検討した菅は譲らない。河野は渋い表情で見つめるだけだった。
その夜、菅は緊急事態宣言の3回目の発令に追い込まれた。菅は記者会見で発令を謝罪する一方、高齢者の接種完了時期を「7月末まで」と表明した。
あえて退路を断った菅の胸には、こんな思いが去来していた。今年1月に新規感染者が1日6万人に上った英国は都市封鎖(ロックダウン)でも収束せず、ワクチン接種が進んだ今、日常生活を取り戻しつつある。日本は今一番きついが、我慢の時。接種が本格化する6月に必ず雰囲気が変わる――。「何を言われようが、ワクチンだけで突き進む」
さらに菅は、自衛隊を動員した大規模接種会場の開設に続き、5月7日、ワクチン接種の「1日100万回」目標を打ち出した。
接種が加速化する5月24日から7月末まで約70日。100万回は、この間に高齢者の2回接種(計7200万回)を終えるのに必要な回数を逆算した「首相発案の数字」(周辺)だった。
これにも河野は抵抗した。具体的な裏付けもなく掲げて、達成できなければ、非難を浴びるのは確実だった。
「1日70万回でもいいのではないですか」
発表直前、数字を知った河野は、菅と直接向き合い翻意を迫った。季節性インフルエンザワクチンの1日平均接種実績の60万回に、10万回上積みした数字が限度だと食い下がったが、「オレがやると言えば、みんな動く」と強く信じる菅は納得しなかった。
菅は、同じ神奈川県選出の河野を「将来の総裁候補」と目をかけてきた。2009年の自民党総裁選では、河野の推薦人集めにも奔走した。突破力や発信力を評価し、ワクチン担当に河野を起用したのも菅だった。そんな「弟分」の河野の反対も退け、菅はワクチン接種加速に向け突き進んだ。
菅は、周囲とぶつかり時に暴走する河野も認め、起用してきた。だが、ワクチンを巡っては、菅が周囲の制止を振り切り突っ走る。ある閣僚は、こう解説する。
「普段は暴走する河野をみんなで止めるのに、今回は、その河野が首相を止めようとしている」
からの記事と詳細 ( 周囲の制止振り切り突っ走る首相、高齢者接種「7月完了」譲らず…[政治の現場]ワクチン<上> - 読売新聞 )
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