私は美帆の母親です。
美帆は十二月の冬晴れの日に誕生しました。一つ上に兄がいて、待ちに待った女の子でした。幼い頃はとても音に敏感でした。人にあいさつされただけで泣き叫ぶ子でした。
三歳半で自閉症と診断された後は、とにかく勉強しました。本を読んだり、講演会に通い、少しでも美帆のことを理解しようとしました。他の親御さんたちと、障害のある方やその親の気持ちを伝えようと思い、学校や地域で語ったこともありました。美帆が私の人生の全てでした。
多くの良い先生や、友達、支援してくれた職員さん、ガイドヘルパーさん、ボランティアさんに恵まれました。皆、優しく接してくれたので、とても人が好きで人懐っこい子に育ちました。
家庭の事情で中学二年生の時から児童寮で生活していました。毎月会いに行くのが楽しみでした。人懐っこくて言葉はありませんが、すーっと人の横に来てあいさつをして前から知り合いのように接していました。笑顔がとてもすてきで、周りを癒やしてくれました。ひまわりのような笑顔でした。美帆は毎日を一生懸命生きていました。
「お母さんのことを思うといたたまれません」と言われて、むかつきました。一ミリも謝罪された気がしません。痛みのない方法で殺せば良かったということなんでしょうか。冗談じゃないです。美帆にはもう、どんな方法でも会えないんです。
当日は七時三十分ごろ「美帆が被害に遭っている」との連絡をもらい、九〜十時の間ごろ、やまゆり園に着きました。名簿の×を見た時から、もう何が何だか分からなくなり、頭も真っ白でした。何回も夢じゃないかと思い、ほっぺたをつねってみたのですが、夢か現実か、自分が誰なのか、どうしてここにいるのかも分からなくなっていました。
だいぶ時間がたってから美帆に会えました。顔しか見せてもらえませんでした。ストレッチャーに乗せられていて「美帆ちゃん、美帆ちゃん」と何度呼んでも答えてくれなくて、自分で体温調節するのが苦手で汗をあまりかかない子だったのでいつも温かい子が、その時は、すごく冷たくて、冷たくて、そんなこと一度もなかったのにすごく冷たくて一生忘れることのできない冷たさでした。会ったのは数分だと思います。
事件後、家はめちゃくちゃになりました。社交的で老人会や自治会の活動に積極的に参加していた祖母が家に引きこもってしまい、一歩も外に出なくなりました。笑顔が消え、表情がなくなりました。兄は具合が悪くなり、休み休み仕事をしていましたが、入院することになり仕事を辞めました。
私は食事をしても味が分からなくなり、九キロやせました。心療内科に通い薬を飲むようになりました。身体が痛くて寝る時に骨が当たって痛くて眠れませんでした。一人で外出するのが怖くなり、外に出られなくなりました。頑張って外に出ると心臓の動悸(どうき)がすごく、ドキドキしてブルブル全身が震えてしまうことがよくありました。今でもこの発作で震えてしまうことがあります。
私の人生はこれで終わりだと思いました。自分の命より大切な人を失ったのだから。美帆がいなくなったショックで私たち家族は、それまで当たり前にしていたことが何一つできなくなりました。
私たち家族、美帆を愛してくれた周りの人たちは皆、あなたに殺されたのです。未来を全て奪われたのです。他人が勝手に奪っていい命など一つもないということを伝えます。
私は娘がいて、とても幸せでした。決して不幸ではなかったです。「不幸をつくる」とか勝手に言わないでほしいです。私の娘はたまたま障害を持って生まれてきただけです。何も悪くありません。あなたの言葉を借りれば、あなたが不幸をつくる人で、生産性のない生きている価値のない人間です。あなたこそが税金を無駄に使っています。
あなたが憎くて憎くてたまらない。極刑でも軽いと思う。どんな刑があなたに与えられても私はあなたを絶対に許さない。許しません。
私の一番大事で大切な娘、美帆を返してください。美帆はこの世にいなくて、好きなことは何もできません。私たち家族と会うこともできません。
でも、あなたは、こうして生きています。ずるいです。おかしいです。十九人の命を奪ったのに。美帆は一方的に未来を奪われて十九年の短い生涯を終えました。だからあなたに未来はいらないです。私は、あなたに極刑を望みます。一生、外に出ることなく人生を終えてください。
二〇二〇年二月十七日 美帆の母
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February 18, 2020 at 05:37AM
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