能登半島地震では、田畑の崩れや亀裂、液状化などが起きたほか多くの納屋や農業施設が倒壊、損傷した。農業関係者からは、今年の作付けを危ぶみ、廃業を考える声まで聞かれた。地震は、世界農業遺産として日本で初めて認定された「能登の里山里海」に暗い影を落とす。(元編集委員・中島健二)
世界農業遺産「能登の里海里山」 2011年に国連食糧農業機関によって日本で初認定された。世界農業遺産は伝統的な農林水産業を、関係する文化や自然とともに守るのが目的。能登の里山里海は能登地方の4市5町がエリア。天日で稲穂を乾燥させる「はざ干し」や海女漁など伝統的な農林漁法、白米千枚田などの景観、農耕儀礼あえのことなど豊漁や豊作を祈る祭りが評価された。
◆農地は修復できる。でも「やろうという気になれるか」
「何から手を付けていいのか分からない」。石川県能登町にあるJA内浦町の尾上雅俊営農経済課長は話す。水田では、あぜの破損やひび割れなどが見られ、ため池は水漏れ、用水路は破断した。沿岸部は津波で農地の塩害が懸念される。農業機械も流された。
「家も何もなくなってしまった農家に『何か作ってくれ』とは言えない。農地は修復しようと思えばできるが、やろうという気になれるか…」
輪島、珠洲両市など奥能登を広くエリアにするJAのとは、ようやく農業施設の調査に入った。育苗施設と米倉庫の合わせて9カ所で破損が確認され、高く積み上げられていた袋詰めの米が崩れ落ちたケースもある。
廃業を決めた農家もいる。羽咋(はくい)市で12ヘクタールの稲作をしている潟辺政一さん(73)の納屋は揺れで大きく傾いた。地震発生当時、納屋の外に出ていてけがはなかったが、中にあった乾燥機やコンバインなどは天井に押しつぶされた。
いずれも10年ほど前に高額で購入したが廃棄せざるを得ない状態。「あと2年は続けるつもりだったが今から投資したって元は取れん。どうもこうもならん。もう田んぼ、やめた」と吐き捨てるように語った。
石川県が27日現在でまとめた被害状況は農地113件、農道252件、水路196件、ため池226件など。富山県内でも農林水産省のホームページによると、26日現在で農地247カ所、農業用施設等1693カ所の被害報告が出ている。
◆「稲作の生命線」にダメージ
今回の地震による深刻な被害が稲作の生命線である水路やため池に出ている。能登半島の付け根にある富山県氷見市では上流のダムから農地に水を送る用水路のパイプラインで複数の損傷が判明。県や農水省が調査に着手した。石川県奥能登地方でも水利施設の被害が懸念される。
損傷が明らかになったのは、富山県高岡市にある五位ダムから氷見市に水を引くため国と県が建設した総延長約150キロのパイプライン。地震で地中の管が外れ、水が噴き出す状況が確認された。
このため県と農水省が民間も交えて15日に調査チームを発足。国建設の幹線3本のうち2本で計4カ所の離脱が特定された。ルート上の道路などで亀裂や陥没など損傷を示す痕跡も39カ所見つかっている。
氷見市は大きな河川がなく、農業はため池やダムからの水が頼り。特に五位ダムからのパイプラインは県建設の支線や約1000キロの用水路を通じて市内ほとんどの田を潤す。同市堀田で34ヘクタールを作付けしてきた堀田営農組合の扇啓一代表(71)は「この水がないと耕作はできない。作業が本格化する4月下旬までには復旧してほしい」と期待する。
調査チームは今後、水路に水を流して全容を把握する計画。県農村振興課中山間農業振興班の上島克幸班長は「応急工事で水をつなぎ春の営農に間に合うようにしたい」として、調査検討を急ぐ考えだ。
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