被害者家族の象徴的な存在 横田滋さんの死
「国会においては、与党野党の壁なく、具体的かつ迅速に解決のために行動して欲しいと思うし、マスコミも、イデオロギーに関係なく、この問題を我がごととしてもっと取り上げて欲しいと思っている」
4日前、父、茂さんが亡くなったのを受けて6月9日に行われた会見。横田めぐみさんの弟、拓也さんのこの言葉が私の胸に刺さった。
13歳の幼い娘が突然目の前から消えてから43年。
滋さんは娘の生存を信じ、自らの元に取り戻すために戦い続けてきた。
拉致問題が発覚してからは、被害者の家族会を結成し、救出活動で先頭に立って家族会を引っ張ってきた。
被害者家族の象徴的な存在だった。
印象的なシーンがある。
2002年10月15日羽田空港。
政府チャーター機のタラップから5人の拉致被害者が降り立ち、家族と抱き合った。
喜びの帰国だった。
しかし、そこには横田めぐみさんの姿はなかった。
それでも涙を流しながら、家族の再会をカメラに収め続けていた。
それが横田滋さんだった。
カメラを持つ震える手がすべてを物語っていた。
この帰国から18年。
拉致被害者は一人も戻っていない。
安倍政権から菅政権へ
そして2020年8月28日。
拉致問題を政権の「最重要課題」と位置づけ、被害者家族に寄り添い続けてきた安倍首相が辞意を表明した。
コロナ渦、首相の辞任・交代、そして、滋さんの死、
激動の日々を過ごす中で、めぐみさんの母、早紀江さんは何を思うのか。
お話を伺ってきた。
横田早紀江さん:
夫が亡くなってからなんだか夢のような感じでね、あっというまに三ヶ月が過ぎました。全力投球で頑張ってきて力尽きましたから、本当に頑張ったなと感謝してますし、いつもニコニコした写真があるので、毎日声かけながら、おはようとか色んなこと話しながら、まだそこにいるような感じで過ごしています。
優しい笑顔で話し始めて下さった早紀江さん。
この夏は初めて横にならないといられない状況が度々あって、食欲がないこともあったという。
気丈にふるまう早紀江さんの優しい瞳の奥に寂しさも感じた。
43年間の苦しみ
そして、9月16日に誕生した菅内閣についてこう語り始めた。
横田さん:
43年という月日がたっているので、そういう状況を経験してきているので、流れを静かに見つめていますよ。なかなか動きませんがこの問題が大きく報道されるようになって、安倍前総理も一生懸命外交で訴えて下さったことはありがたいですが、楽観することはできません。どうしてこんなに酷いことされて、たくさんの人が連れていかれているのに取り返せないんだろうって。これまで積み重ねてきたことをたくさんの方と協力しながら、本気でやって頂きたいと思います。
ーー期待はされていますか?
横田さん:
期待というものはもう持てませんよ。本当に『今度こそ、今度こそは』といつも思って、各総理に期待を寄せて、みんなきていますから。」
めぐみさんの姿が見えなくなってから探し続けた20年。
拉致が判明して居場所がわかりながらも会えない23年。
43年、大切な娘を一目見ることもできないその苦しみは計り知れない。
横田さん:
苦しみ続けてきた長い年月。こういう人生だったんだなと・・・。主人が亡くなってから、あんなに頑張っても誠実に一生懸命頑張っても会わせていただけないんだなという悲しさは言葉には言い表せません。
拉致被害者家族の高齢化が進み拉致問題は時間との戦いとも言われる。
拉致被害者の親世代でご健在なのは有本恵子さんの父、明弘さんと早紀江さんの2人のみ。
加えて、このコロナ禍で家族会の活動が難しく、政府の果たす役割の重要性が一層高まっている。
横田さん:
子どもたちは何の罪もなく連れ去られて、そのまま四十何年間も姿も顔も見られません。うその遺骨を送ってきたことも経験しているんです。本当に大変な問題が日本で起きているのだと、私たちだけの問題ではなくて、日本の国家のなんとかしなければいけない大事な問題だと思っています。皆さんにも菅さんにも伝えているので、ちゃんとそれをわかってくださると思います。これから菅さんの拉致に対する執念、許せないという思いが、どこまで結果につながるかを見させていただきたいと思っています。
めぐみさんの誕生日を迎えるたびに
10月5日はめぐみさんのお誕生日。
今年で56歳を迎える。
横田さん:
誕生日が来るのが嫌で・・・かわいそうで・・・悲惨な人生を歩ませちゃってごめんねという思いが捨てきれません。
めぐみさんのものはすべて今も大切に残している。
幼い時のミルクのような香りが、懐かしい思い出を蘇らせる。
秋の運動会にクリスマス。
街から聞こえる音が、この時期、楽しかった日々と重なる。
日朝交渉は膠着状態がつづく拉致問題。
どこかアメリカの外交に委ねているようにさえ、見えてしまう。
娘に会いたいという母の当たり前の想いを決して裏切ってはならない。
早紀江さんの切実な想いに、日本が主体的に動くことを期待するだけでなく、そのためには私たちも、声をあげ続けていかなければならない。
早紀江さんがその手でめぐみさんを抱きしめる、その日まで。
【執筆:フジテレビ アナウンサー 三田友梨佳】
"一生懸命" - Google ニュース
October 01, 2020 at 10:30AM
https://www.fnn.jp/articles/-/89681
「一生懸命頑張っても会わせていただけないのかな...」43年の年月と横田早紀江さんの悲しみと - FNNプライムオンライン
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