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Sunday, August 16, 2020

韓国の大ヒットエッセイを生んだ著者が説く、頑張りすぎない生き方。 - VOGUE JAPAN

日本で“自己肯定感”という言葉が改めて注目されている。なぜか? 日本を含む7カ国の若者を対象にした意識調査の比較結果を見れば歴然だ。「自分自身に満足」の割合が極端に少なく、「自分には長所がある」という回答も一番低い。日本人は常に人と比較され、学校でも社会でも協調性を求められる。SNSを眺めれば、美味しそうな手料理、引き締まった腹筋、おしゃれなインテリアなどキラキラした日常が並び、それとは遠い自分に自己嫌悪。努力が足りないと走り続けて心は磨り減り、もはや自尊感情を持つことも難しくなってはいないだろうか。

他人の速度に合わせず自分のペースを見つける。

自己肯定感を高めるために、まずは肩に乗った重い荷物を下ろして。努力、心配、やる気、比較、他人の評価……。思い通りにいかない人生も愛し、何もしないという贅沢を知ろう。

日本に次いで自己肯定感が低いとされる隣国韓国でのベストセラー本『あやうく一生懸命生きるところだった』。著者は40歳を前に会社を辞め、頑張らない人生を選択したハ・ワンさん。「一生懸命生きること」をやめた理由はとてもシンプル。「幼い頃から“一生懸命生きなければいけない”という教育を受け、言われた通り頑張ればなんでも成功すると信じていたのに、気づけば何も持っていない中年の男になっていました。悔しくて、ちょっと違った生き方をしてみたい、と1年間、一生懸命生きないことにトライしたんです」

著書では「努力は必ず報われるとは限らないと認めることが大切」と書いている。こんなに頑張ったのに、とモヤつく気持ちはどう解消すればいいのだろう。「努力する態度はいつだって素晴らしいもの。ただ“努力すればすべてうまくいく”という考えは、世の中をあまりにも狭く見ることだと気づきました。人生は数学の公式ではなく、同じ数を入れても同じ結果が出るわけではありません。努力は結果をつくる要素の一部だという点を理解すれば、悔しい思いは減るのではないでしょうか?」

ハ・ワンさんは“レース”を棄権したことで、気持ちが楽になり人生が好転したという。「一生懸命生きるのが当然だと思っていたときは、自分をどんどん追い詰めていました。そんなときは絶えず自責してすべて自分の努力不足と錯覚しがちです。一生懸命の呪縛から脱したら強迫観念が少し収まり、心に余裕ができて自分や周りに肯定的に。今では流れに身を任せるられるようになり、気づけば目標にもなかった作家という職業も手にしていました」

彼には自尊感や自己肯定感を持続するために心がけていることがある。「前はイラストの依頼がきたら、金額とスケジュールが合うかを重視していたけれど、今はその仕事が面白いかどうかが最優先。そうすれば“一生懸命”ではなく“面白く”仕事ができるから。そのおかげでお金はあまり稼げませんけど(笑)。何かを諦めれば、ほかの何かが得られるんですよ」

『あやうく一生懸命生きるところだった』(2020)著: ハ・ワン 翻訳:岡崎暢子 出版:ダイヤモンド社

幼少期より刷り込まれた“人生マニュアル”に振り回されている人は多い。自分が本当に満足できていないのか、それとも他人の価値観に当てはめているからなのか、それを見極め、攻略する方法はあるのだろうか? 

「私たちは常に他人から影響を受け、周りのように生きなければ不安になるのです。他人と速度を合わせようとしたら、自分の状況は重要ではなくなりますよね。人がどのように暮らすのか、何を好むのかなど、いつも注視しなければいけません。自分の人生なのに、他人がメインになってしまうのです。だから自分だけの速度を探すことが重要。他人と速度を合わせなくなったら不安は残りますが、他人に振り回されることも減るでしょう。とはいえ私も、人と比べることをいまだにやめられません。ただ、比べることを減らそうと気を遣っています」

著書の中でハ・ワンさんは「一人の時間は帰り道が約束された旅行でもある」と表現。リモートワークが増え、個人の時間が増える今こそ、自分なりのペースとコースを見つけるチャンスでもある。「一人でいる時間は、人間関係の疲れを癒してエネルギーを充電し、他人と健康な姿でまた交わりあうために必要な時間。一人でいる時間が長くなるほど、人との関係がどれだけ重要かにも気づくはず」

理想と現実のギャップに悩み、満たされない思いを抱えている人には、こうアドバイスする。「いい暮らしのために絶えず何かを“もっと”すべきだと考えがちですが、“少なく”することも一つの方法だと僕は思います。努力に比例して心配も少なくしてみてください。私はこれで新しい見方ができるようになり、“今の暮らしも悪くないな”という悟りに至ったのです」

ささやかでも、自分が十分と思えたら幸せ。そして、自分を認めることもできる。お金も仕事も恋愛も考え方は同じだ。楽しむことが上手になった今、本当にラグジュアリーだと感じるものは? 「時間です。一生懸命に生きないと時間があふれている。だから惜しまずに、浪費して暮らしています」

Five Key Words
・努力は結果をつくる一部だと知る。
・他人のスピードに合わせない。 
・「もっと」じゃなく「ほどほど」に。 
・ありのままのダメな自分を認める。 
・「一生懸命」より「楽しい」人生を。

話を聞いたのは……
ハ・ワン
イラストレーター、作家。イラストレーターとサラリーマンのダブルワークから一転、40歳目前に会社を辞め、自分らしい生き方を見つめ直した自伝的エッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が韓国で25万部を超えるベストセラーに。

Illustration: Konatsu Tani Text: Eri Kataoka Editors: Kyoko Muramatsu, Airi Nakano

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August 16, 2020 at 04:00PM
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