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Thursday, June 18, 2020

「一生懸命生きない」韓国本、なぜ日本で共感を呼んだのか? - ニフティニュース

 新型コロナウイルスの影響による失業や収入減で、生計維持のために奔走している人も多いだろう。しかし今、世間の流れとは対照的な韓国のエッセイ本が売れている。

 韓国で25万部のベストセラーとなった『あやうく一生懸命生きるところだった』(ハ・ワン著、ダイヤモンド社)は、1月15日に日本で発売されるとすぐに話題になり、発売から約5か月で累計9万部を突破。韓国では、人気グループ・東方神起のユンホが手にとったことでも話題を呼んだ。この本の翻訳者である岡崎暢子さんが話す。

「コロナ騒動で、発売後すぐに書店が閉鎖されてしまったのですが、巣ごもり需要もあったのかSNSや口コミなどで話題になり、オンラインでの売れ行きが好調でした。自粛明けの6月に書店が再開されて、さらに反響を頂いているようです」(岡崎さん)

 この本は、「良い大学を出なければならない」「大企業に就職しなければならない」「結婚して子供を産んで当たり前」といった、現代社会に蔓延する奇妙な“正解社会”に、著者のハ・ワンさん自身が40才を目前にして突如会社を辞め、「一生懸命をやめる」生き方を選択し、独自の視点で疑問を投げかけている。

 著書の中でハ・ワンさんは、「なぜ僕らはいつも、正解がただ一つしかないかのように、そこに群がるのか」、「お金をたくさん稼がなくても幸せに暮らせて、無視されることもなく、惨めでもない世の中、そんな社会を夢見ている」と、誰もが一度は感じる社会への違和感や閉塞感を率直に綴った。

◆地獄のような朝鮮「ヘルチョソン」

 韓国経済に詳しい大東文化大学教授の高安雄一さんは、この本が韓国でヒットした理由について、こう分析する。

「韓国には、海外のような多様な価値観がありません。良い大学を出て大企業に入ることが人生の目標になっていて、そのための競争が非常に激しい。多くの若者は遊びを我慢して死に物狂いで勉強し、『SKY』と呼ばれる三大名門大学(ソウル大学、高麗大学、延世大学)を目指します」(高安さん)

 韓国には中学・高校受験が基本的にないため、エリートコースに進むためには大学受験の一発勝負に勝たなければならない。それも、競争に拍車をかけている要因の一つだ。

「大学入学後は、すぐに成績・英語・インターンという“3種の神器”を獲得するための競争が始まります。大学在学中はずっと就職活動をしているようなものなので、学生たちは息をつく暇がありません。晴れて企業に就職しても気は抜けません。今度は出世競争が始まり、競争に負ければ容赦なく肩叩きに合います」(高安さん)

 2000年代初めに韓国に留学経験のある岡崎さんは、韓国人の生活を間近で見て驚いたという。

「学生はもちろん、サラリーマンも朝から英語や中国語の勉強をして、仕事の休み時間にはジムで汗を流し、飲み会もしっかり3次会まで行く。周囲に遅れをとらないよう必死で、一体いつ寝ているのかと思いました」(岡崎さん)

 現役時代を走り続けて、引退したら平穏な日々が待っているかというと、韓国は高齢者にも厳しい。

「韓国は年金の水準が低く、医療費も現役世代並みにかかります。日本も手厚い方ではありませんが、韓国はもっとひどいので老後も働き続けなければならない人が多い。つまり、一生を通して休める時期がないのです。OECD加盟国の中で韓国の自殺率がトップなのは、高齢者の貧困による自殺が多いからなのです」(高安さん)

 韓国の非正規労働者の数は年々増加しており、その増加スピードは日本より速い。未来に希望が持てなくなると、自分の生活で手一杯になり次の世代を作ろうとは思えず、韓国でも少子高齢化は深刻な問題だ。出生率は日本が1.36なのに対し、韓国は0.92と2年連続1を切っている。

「そんな中、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の逮捕や大韓航空のナッツ・リターン事件などがあり、権力者の横暴ぶりに韓国人は怒りと絶望を感じたのです。この頃の若者たちは自国を卑下して、『ヘルチョソン(地獄のような朝鮮)』と呼んでいました」(岡崎さん)

 競争に疲れ果て、国に裏切られ、生涯暮らしは豊かにならない。そんな中で出版された本書が、韓国国民の心を鷲掴みにしたのだ。

◆“人生マニュアル”に沿って生きても幸せになれない

 本書が日本でヒットしたのも、少なからず韓国との共通点があるからだ。

「韓国はこれまで、日本の20年前を辿っていると言われてきましたが、格差や自殺率、出生率など、社会問題の観点で見れば韓国が日本を追い抜いています。韓国ほど深刻な状態ではなくとも、昨今の日本も終身雇用が大きく揺らぎ、非正規雇用の比率は増加傾向にある。昨年明るみに出た“老後2000万円問題”や年金の目減りも、日本全体の閉塞感につながっています。同じような問題を抱える特に若い世代は、閉塞感を持つ者同士共感する部分があるのでしょう」(高安さん)

 岡崎さんは、「多様な生き方が認められ始めている」と話す。

「日本でも韓国同様、きちんとした会社に就職して何才までに結婚して、子供を産んでマイホームを持って…と、『こうならなければいけない』という“人生マニュアル”がありますよね。でも、そのマニュアルに沿って生きた結果、幸せになれるとは限らない。この本は、そのことに皆が少しずつ気付き始めて、窮屈な正解社会に疑問を感じている人々に刺さったのだと思います。その意味で、多様性を認めようという空気感が日韓ともに少しずつ広がっているのではないでしょうか」(岡崎さん)

 他者と比較することは、競争社会に一生身を置き、疲弊し続けることに他ならない。この本は、そうした社会へのアンチテーゼとして広く人々の心に響いたのかもしれない。

 イラスト/ハ・ワン 取材・文/小山内麗香

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