10カ月前、Cruise(クルーズ)は昨年末までに少なくとも1000人のエンジニアを雇うと宣言していた。72億5000万ドル(約7950億円)の軍資金を有する企業であっても、スタートアップや自動車メーカーや巨大ハイテク企業が人材の熾烈な争奪戦を繰り広げる業界においては、かなり挑戦的な目標だ。
当時、そしてその後もCruiseは誰を雇うのかは話してこなかった。Cruiseはソフトウェアのエンジニアを狙っていて、認知と判断と操作、シミュレーションとマッピングの専門家を雇い入れ、自動運転車の「頭脳」を作らせるつもりだとの憶測も飛んだ。それも確かに目的のひとつではあった。
GMの子会社であるCruiseは、ソフトバンク・ビジョン・ファンド、自動車メーカーのホンダ、T. Rowe Price(ティー・ロウ・プライス・アソシエイツ)の支援も受け、現在、1700名の従業員を擁している。そのうち、ソフトウェアエンジニアはかなりの部分を占めている。
Cruiseは、この18カ月間、あまり知られていない活動に着手していた。大規模なハードウェアエンジニアのための部門の設立だ。うまくいけば、ビル1棟を割り当てるほどの規模になる計画だ。現在、その努力の最初の結果は、サンフランシスコのブライアント通りにあるCruiseの社屋地下の拡大を続ける研究室であくせく働いている。
もしCruiseの計画が思い通りに進めば、ビルの地下では収まりきれなくなる。Cruiseの計画に詳しい情報筋によれば、同社は、ブライアント通りのかつてCruiseの本社が置かれていた床面積約1万3000平方mの建物を、ハードウェア部門専用に割り当てるつもりだという。
ソフトウェアエンジニアは、一部がブライアント通りに残るものの、大部分は他の従業員とともにブラナン通り333に移動する。そこはDropboxの本社があった建物で、2019年にCruiseが買い取った。
Cruiseは、ハードウェアチームもソフトウェアチームも、具体的な従業員数を公表していない。現在の求人情報やLinkedInなどの情報を合わせて考えると、ハードウェア専門の従業員は300人以上いると思われる。LinkedInのデータベースを見る限り、少なくともその10%は過去90日以内に雇用されている。
それでもまだ求人は続いている。Cruiseのウェブサイトでは、あと160人分の職が空いている。およそ106名がソフトウェア関連で、ハードウェアエンジニアは35名だ。残る24名は、管理、広報、事務、保安など他の部門のものとなる。
ハードウェア本部
風通しのいい、陽光あふれるダイニングホールとCruiseの試験用自動運転車が保管されたガレージの下で、数百人のハードウェアエンジニアたちが、今の、そして将来の車のためのセンサーからネットワークシステム、演算システム、情報システムにいたるまで、あらゆる開発を進めている。
つまりCruiseは、未来の車を見据えてソフトウェアと同じぐらいハードウェアの開発に積極的になっているということだ。その手作りハードウェアは、サンフランシスコで1月22日の夕方から開かれるCruiseの「Beyond the Car」イベントで初披露される可能性が高い。
Cruiseの価値は、そのソフトウェアに寄るところが大きい。6年前、既存の車に後付けしてハイウェイで自動運転ができるようにするアフターマーケットキットを開発するという計画の下に創設されたときから、Cruiseはソフトウェアの会社だった。
Cruiseの創設当初の歴史に詳しい情報筋によれば、GMのベンチャーチームが2014年の初頭からCruiseに目を付けていたという。しかし、GMとの関係が花開いたのは、Cruiseがアフターマーケットキットを捨てて、市街地で使える自動運転車の開発に方向転換してからのことだ。
そのときCruiseは、ハードウェアとソフトウェアを統合させるためには、もっと高度な専門知識が必要だと気がついた。2015年後半には、GMとの話し合いは事実調査の段階を超えて発展した。そして2016年3月、GMはCruiseの買収を発表した。
GMが親会社となったCruiseは、突然、製造大手の便宜が得られることになった。GMの電気自動車であるシボレー・ボルトEVは、Cruiseが自動運転の試験車両として使えるプラットフォームになった。現在、Cruiseには180台の試験車両があり、そのほとんどをサンフランシスコの公道で見ることができる。
Cruiseは以前からハードウェア・エンジニアを雇ってきた。しかし、ハードウェア開発とシステム統合に力を入れ始めたのは、2018年の初めにCarl Jenkins(カール・ジェンキンス)氏をハードウェア部門副社長として、Brendan Hermalyn(ブレンダン・ハーマリン)氏を自動運転ハードウェアシステムの責任者として雇い入れてからのことだ。
それとほぼ同時期に、GMはCruiseの自動運転車の量産型を製造すると発表した。無人運転で、ハンドルもペダルも人のための操作系もない車を、ミシガン州オライオン・タウンシップの組み立て工場でイチから作るという計画だ。自動運転車の屋根のモジュールはブラウンズタウン工場で組み立てられる。GMは、このミシガン州の2つの工場に1億ドル(約110億円)を投じて生産に備えると話した。GMのオライオン工場では、すでにシボレー・ボルトEVと、Cruiseの第三世代の自動運転車の試験版が生産されている。
その6カ月後、GMは、GMとCruiseが新しい種類の自動運転車を開発するという包括合意の一環として、ホンダが27億5000万ドル(約3020億円)を出資することになったと発表した。
システムズアプローチ
システム統合は、以前にも増して重要になる。Waymo(ウェイモ)でカメラ部門を率いていたハーマリン氏は、システム統合の主要な牽引役の一人だ。
ハーマリン氏がシステム統合に情熱的だという表現は、控えめ過ぎるかも知れない。去年、1時間におよぶインタビューで、彼は繰り返しその言葉を強調していた。整列する試験車両の間に立ち、ひとつのことを力説した。「最もエキサイティングなのは統合です」と。彼はまた、Cruiseの理念とリアルタイムで即応し、安全第一の感覚知覚処理を可能にするシステムを、大きなスケールで製造するアプローチに関するブログ記事も執筆している。
ハードウェアとソフトウェアを統合する能力は、自動運転車の安全運用には不可欠であり、自動運転車を開発する企業はみな同様に追求している。しかし、Cruiseの力の入れようを見ると、ほとんどのハードウェア部品を自社開発しているという事実も相まって、この領域が同社にとって、どれほど大切なものかがわかる。
Cruiseのハードウェア開発の焦点は、センサー、コンピューター処理、ネットワークシステム、通信、インフォテインメント、ユーザーエクスペリエンスと、自動運転技術全般に当てられている。
Cruiseは初期段階の製造を自社で行うが、1社だけですべてをやろうとは思っていないとハーマリン氏は強調している。
「GMとホンダをパートナーに出来て、私たちは幸運でした」と彼は、10月に行ったTechCrunchとのインタビューで話していた。「それらの会社の自動車工学の専門知識を活用でき、さらに開発工程から、その自動運転トポロジーを工場の生産ラインで組み立てられた完成車両に組み込むまでを彼らと共同で進めることができるからです」。
Cruiseの車に搭載されているカメラシステムのバッフルなどは、GMとの提携関係から生まれたごく小さな例に過ぎない。そこでは、自動洗浄システムが開発され組み込まれた。その他、共同開発されたハードウェアには、センサー、マンウト、ライダーの組み込みが容易なバンパーなどがある。Cruiseは、ライダーのスタートアップであるStrobe(ストローブ)を2017年に買収した。
「私たちの目標は、できるだけ早く作ることです。すべてを作ることではありません」とハーマリン氏は後に補足していた。「当然、私たちもサプライヤーに製造を委託します。ひとつひとつ手作りすることに拘束されるゼペット問題を抱えたくないのです」。
昨年10月、TechCrunchがCruiseのオフィスを訪れたとき、地下の研究室は落ち着かない様子だった。部分的にぎゅうぎゅう詰めのところがあり、拡張への準備が始まっていることが目に見えた。
研究所の増築は続いた。ハードウェア・チームはとくにセンサーの開発に集中しており、「ハードウェアの急速な成熟のための少量製造能力」を発揮していると、彼は追伸のメールに書いていた。
「これは、航空宇宙業界で行っているものと、あまり変わりません」とハーマリン氏はそのシステムズアプローチについて語っていた。「しかし、その解決方法に独自性が出るのだと私は思っています。私たちはパートナーたちと共に、そうしたシステムとしての問題を追求し、市場で対処することができます」。
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(翻訳:金井哲夫)
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January 23, 2020 at 01:21PM
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